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● 不器用な私達 --- 3 ●

高校に入学して、私は中学に引き続きバスケ部に入った。
それは、幼馴染のハルも一緒で また中学のときと同じようにお互いに励ましあいながら頑張っていけると思っていた。でも‥‥

「ねぇねぇ、聞いた?バスケ部って、一年生がレギュラーになったらしいよ!?」
「うそ!!ホント?何ー?スゴイ上手なの?」
「そうなんだって!!結構かっこいい子らしいし!!今から見に行ってみない?」
「ねぇ、その子名前なんていうの?」

「柏木ハル」

ハルは、その才能を認められてあっという間に有名人になった。校内だけでなく、他校にもファンが出来るようにまでなった。

ハルはもう、私の知ってるハルじゃないんだ。

そう思ったとき、すごく胸が苦しくなって。奈津美に言ったら、「それが好きって気持ちよ」って言われた。

自分の気持ちに気付いても、特に何かをしようとは思わなかった。何故かって聞かれたら、やっぱり今更って気持ちがあったんだと思う。

それから、一ヶ月ぐらいが経ったとき 私は見てしまった。

「あぁ〜。教室に財布忘れてくるなんて最悪‥‥」

部活が終わり、家に帰ったあとふと鞄の中を覗いてみるとそこにあるはずの財布の姿が見当たらなかったのだ。それで、少し薄暗くなった外に出て 学校まで自転車を必死こいて漕いできたのである。

「?」

ボールの音?
‥‥‥体育館から?‥‥バスケットボール‥‥?

気づいたときには もう走り出していて、体育館の前に来た時には息を潜めてそっと中の様子を伺った。

「―――‥ハル‥‥?」

そこにいたのは、ハルだった。
体育館の中にいるのは、どうやらハルだけのようだ。

カタンッ

ちょっと気を抜いた途端に足をドアにぶつけてしまい、小さいけれども体育館の中にはよく響く音を鳴らしてしまった。

「‥‥‥愛里‥?」

ハルはその音に反応して、ドリブルしていた手を止めこちらに顔を向けた。

「‥‥何してんだ?」

その問いかけを合図に、私は体育館に入りハルの近くまで歩いていった。

「私は、忘れ物とりにきたの。‥‥ハルこそ、何してたの?」

私が聞くと、ハルはボールを抱えたままそっぽを向いて少し投げやりぎみに答えた。

「―――‥自主トレだよ」

「自主トレ?ハルが?‥‥毎日?」
「そうだよ」
「‥‥何で‥」
「そんなの、上手くなりたいからに決まってるだろ?」

ハルはそう言って笑って、またバスケをするために走り出した。

「そっか‥‥。そうだよね、‥‥やっぱり ハルはハルだよね」

中学のときも誰より頑張ってたハル。
そのことを誰よりも分かっていたはずなのに、どうして私の知ってるハルじゃないなんて思ってしまったんだろう。
ハルは天才なんかじゃない。誰よりもたくさん努力してるから、こんなにも上手くなったんだ。どうして今まで、気付かなかったんだろう。


「おい。お前さぁ、誰にも言うなよ」
「何を?」
「自主トレのこと」

結局私は最後まで ハルの自主トレを見学していた。その帰り道で、やけに真剣な顔をして、ハルは私に口止めをしてきた。

「‥‥どうして?」
「‥‥ほら、俺って天才なんて言われてるじゃん?だからさ、こんなの何かかっこ悪いじゃん」
「‥‥バカじゃないの?そんなの気にしなくてもいいのに」
「いいから!絶対言うなよ!!」

ハルはその後 走って帰ってしまったから伝えることは出来なかった。

「―――‥誰よりも頑張ってるその姿が一番かっこいいのに」

誰よりも努力して、才能を認められたハル。
私は、天才と呼ばれるハルじゃなくて、バスケばかのハルを好きになったんだ。
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