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● 運命という輪の中で --- 第一章「出会い」(3) ●

出会って最初の印象は、最悪だったとよく耳にする。
運命の神様は、どうして人に困難な道を歩ませるのだろう。

**********

ついさっき起こった出来事をきれいさっぱり忘れて作業に取り組み始めた私に、明日香が話し掛けてきた。

「ねぇ沙和〜。今日ねぇ、津川渓士って人がね、このクラスに来るんだよ」
「ふ〜ん」

渓士という名前に、少し聞き覚えがある気がしたけど、気のせいだと思って忘れることにした。

「あれ?興味なし?」
「別にどうでもいいし」
「なんでなんでー?やっと戻ってきたのにー」
「?戻ってきた?」

転校生じゃないのだろうか?と疑問を浮かべた私に、明日香はあっと声を上げて、その津川渓士のことについて話し出した。

「そうだそうだ忘れてた。沙和知らないんだよね。津川はね、中学3年のときの冬にドイツに行っちゃった人なんだ」
「ふ〜ん」
「それでね、その津川が今日ここに戻ってくるの。ここってほら、エスカレーター式でしょ?だから、みんな楽しみにしてるのよ」

私の通う風見高校は、中学校から高校までエスカレーター式に進級出来るのだ。ちなみに私は、高校からここに通い始めた、いわゆる外部生という奴。もちろん美和もね。

「その津川って人さぁ、有名なの?みんな楽しみにしてるって」
「有名だよー。津川を知らない人の方が珍しいもん。雑誌にだってのったことあるんだよ!」
「へぇ〜」
「でも‥‥‥‥」
「?でも何?」
「口がちょっと悪いかなぁ?」
「性格悪いの?」
「ううん。優しくっていい人なんだけど、嫌いな人に対してとか、津川が機嫌悪いときとか、ちょっときついとこあるんだよねー」
「ふ〜ん」

それを性格悪いというのではないのだろうかと、ちょっと疑問に思った。

**********

今日の作業が終わりに近づいたころ、ふと思い出したことがあった。

「ねぇ明日香。結局、津川渓士って人来なかったじゃない」
「ん?あぁ、津川ねぇ〜。何かよく分かんないんだけどね、保健室にいるらしいよ」
「保健室?」

保健室といえば、あの人どうしたんだろう?っていうか結局関来なかったし。

「何か頭打ったって聞いたけど」

頭‥‥‥。そういえば、あの人の頭に缶ぶつけたような‥‥‥。もしかして、あの人がそうだったのかな?名前‥‥‥聞いとけばよかった。

「‥‥‥私知ってるかも」
「え?何で?」
「たぶん、私の投げた缶に当たっちゃった人だと思う」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「沙和‥‥‥。絶対目つけられてるよ‥‥」
「‥‥‥あ〜私、生徒会の仕事行かなきゃ」

なんとなく気まずい雰囲気になって、逃げるようにして教室を出て行こうとした。でもその時、見覚えのある男子と関が教室に入ってきた。

「明智‥‥‥」

関は私の顔を見るなり、一言名前をつぶやきため息をついた。

「なにお前、生徒会の役員なわけ?」

多分津川だろうと思われる人は、私に対してものすごく失礼なことを言い始めた。

「廊下でペンキの缶を投げるような人が生徒会にいていいの?はっ。お前みたいな奴が役員なんて、世も末だな」
「‥‥‥‥」

私が呆気にとられているうちに、津川(?)は関と一緒に教室から出て行った。

「‥‥‥明日香」
「‥‥‥何?」
「‥‥‥さっきのって、津川渓士?」
「‥‥‥うん」
「‥‥‥やっぱり?」
「‥‥‥うん」

確かにね、廊下で中身の入ってるペンキの缶を投げるのは間違ってると思うよ。でもさぁ、なにもあそこまで言うことないじゃない。
ごめん明日香。とてもじゃないけど、津川のこと性格いいとは思えない。
私にとっての津川の第一印象は最悪。そして、私のキライなタイプの部類に、いとも簡単に入ることが出来たのだった。

第一章「出会い」(完)
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