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● 運命という輪の中で --- 第二章「夏祭り」(1) ●

寂しい、悲しい、寂しい。
本当にそう感じている人は、口に出したりしないんだよ。

**********

サマーフェスティバルの本番三日前。
みんな朝からずっと作業をしている。もちろん私も頑張ってやってる。

「沙和!!こっち終わったよ。そっちはどう?」
「ん〜?こっちも大体終わったよ。このあとチラシ配りに行くんだけど‥‥‥」
「‥‥‥いいよ。手伝ってあげる。でも、あとで何か奢ってよ?」
「えー?」
「じゃないとしてあげなーい」
「いいもん。里奈と違って優しい優しい明日香にに手伝ってもらうもん。ねぇ?明日香」

後ろに振り返って明日香に問い掛ける。でも、明日香は少し困ったような顔をしていた。

「?どうしたの?」
「あっえっと‥‥‥ゴメン。手伝えないんだ、こっちまだ終わってなくって‥‥‥」

そういって軽く上げた明日香の右手には、ペンキのついた筆が納まっていた。

「あぁ、そっか。じゃあ、がんばってね」

そう言った私は、必要のないものをさっさと片付けて、チラシを片手に教室を出て行こうとした。

「えっ沙和!!一人で大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。じゃあねぇ」

本当は、手伝って欲しかった。明日香に手伝って欲しかった。里奈は里奈で、別の所を手伝い始めてるし‥‥‥。

「ハァ‥‥‥」

まぁ、しょうがないよね。外暑いし、私ぐらいなもんだもんね。外でチラシ配ってるの。

「沙和?」

教室を出ると、職員室に行っていたはずの美和と関と津川がいた。

「おつかれ」

そう言って通り過ぎる私をつかまえて美和は言う。

「外‥‥‥行くんでしょ?ほどほどにしなさいよ」

本当に心配そうに聞いてくる美和がおかしくて、おもわず笑ってしまいそうになった。

「わかってるよ」

でも‥‥‥嬉しかった。心配してくれる人がいて、本当に嬉しかった。

「こんな奴、心配するだけ時間の無駄。勝手に外に行ってるんだから、何かあっても自業自得だろ?」
「おい渓士。お前言いすぎだぞ」
「本当のことだろ」

そして津川は、スタスタと教室に入っていってしまった。
美和もチラッと一度こちらを見てから、教室の中に入っていった。

**********

チラシを配り終えて教室に戻った時、教室の中では、津川を中心にしてすごく盛り上がっていた。
入りづらくて、私はそのまま教室の扉の前にいた。美和も明日香も教室の中にいないようだったので、帰ってきた時に一緒に入ろうと思っていた。
でも、一人でいると考えることがたくさんあって、すごく暗い気分になってきた。考えることというのは、津川渓士のことだ。
ドイツから日本に戻ってきてからというもの、津川はずっと沙和を目の敵にしているのだ。
明日香によく「大丈夫?」と聞かれることがある。もちろん私は笑顔で「大丈夫だよ」と答えるのだが、本当は、本当は、辛かった。そして少しだけ・・・悲しかった。
最初は嫌いだった。でも、どこか津川を気にしてしまう自分もいて、とことん嫌われていることに傷ついた。
私以外の人に見せる津川の笑顔を見て、いつも思うのだ。私にも笑いかけて欲しい。あんなに冷たい目で見ないで欲しい。そう、思うのだ。
仲良くなりたい。それが今の私の素直な気持ち。そう感じたのは久しぶりのことで、私は少し戸惑った。
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