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● 運命という輪の中で --- 第二章「夏祭り」(2) ●

心の中で思うこと、考えることは簡単だ。
でも、言葉にして伝えることは難しい。

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サマーフェスティバルの本番前日。
ちょっと間に合うのか?と思われた作業は、心配することなくしっかり終えることが出来た。

「おい渓士!!ちょっとこっち手伝えよ!!」
「あぁ」

今日は、明日に向けて飾りつけや確認などを主にしている。

「なぁ渓士。お前さぁ、明智のこと‥‥‥根に持ちすぎじゃないのか?」

明智沙和。俺がここに戻ってきた日にペンキの缶を投げつけてきた奴だ。

「別にっ根に持ってなんかない」
「なら、あんな態度とる必要ないだろ?」
「‥‥‥‥」

とろうと思ってとってるんじゃない。何故だか分からないが、あいつの顔を見ると自然にあんな態度をとってしまうのだ。
謝るべきなのも分かってる。でも、俺の口からは『ゴメン』の三文字が出てこないのだ。

「おい渓士。聞いてんのか!?」
「聞いてるよ」
「だからだなぁ。お前が怒るのも分かるけどさぁ、そろそろ許してやってもいいと思うんだよ。明智だって反省してるだろうしさっ」
「‥‥‥‥‥」
「まぁ、あの慌しいというか騒がしいというか‥‥‥う〜ん、落ち着きのない性格?アレは、直らないと思うけど、アイツはアイツで頑張っててさぁ、クラスの奴みんなアイツのこと気に入ってるし‥‥‥ホントいい奴なんだぜ。この準備だってさぁ、明智が一番頑張ってるし」
「‥‥‥‥‥」

『明智が一番頑張ってるし』

そんなこと、言われなくたって知ってるさ。あいつがこのクラスの中で、誰よりも一番頑張ってること。
外にチラシを配りに行く前に、ペンキを塗ったり、組み立ての作業を手伝ったりと休みなく働いてる姿は嫌でも目につく。
そんな明智の姿を見ているのに、悪態をついてばかりの俺は、相当性格悪いと思う。でも、どうしようもないんだ。俺には、謝る言葉も感謝の言葉も伝えることが出来ない。

「ちょっと外行ってくる」
「え?あぁ、じゃあついでにジュース買ってきて」
「金くれたらな」
「分かってるよ。ほら」
「ん。じゃあ、何か適当に買ってくる」

そう言って俺は外に出た。しばらく歩いてコンビニの近くまで行くと、見覚えのある姿が遠くに見えた。

「明智‥‥‥」

その時あいつは、小学生の女の子相手に話していた。小学生がどこかに行ってしまったあとも、通りかかるいろんな人をつかまえてはチラシを配って話しかけていた。
『おつかれ』『手伝おうか?』
そんな言葉が頭の中では浮かぶのに、俺は言葉にして明智に伝えることが、どうしても出来なかった。
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