●● 運命という輪の中で --- 第四章「涙」(3) ●●
君の言ったその言葉は、どれだけ私を喜ばせただろう。
きっと私は、あの瞬間を一生忘れない。
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最近 ちょっと津川の様子がおかしい‥‥と思う。
「ねぇねぇ沙和。よかったねぇ〜」
「何が?」
「何がって、最近津川何も言ってこないでしょ?」
「‥‥‥うん」
そうなのだ。なぜかテストが終わってからの一週間、津川は私に何も言ってこなくなった。
言ってこなくはなったんだけど、そのかわり 目が合うことが多くなった。で、目が合ったら合ったで何か言いたそうにするんだけど、結局いつも何も言わないんだよね。
「‥‥沙和。あんまり嬉しくなさそうだね」
「え?」
嬉しく‥‥ないのだろうか?この状況が‥‥‥。確かに、突然静かになった津川を見ると 気持ち悪い思いがするのは事実だけど、今の状況が嬉しくないはずがない。
「ちょっちょっと沙和!津川が‥‥」
「‥‥‥‥?」
驚いた顔をして私の背後を明日香が指差した。そして、その指の指し示す方向を見て見ると、その先には‥‥‥津川がいた。
「‥‥‥津川?」
「あ〜えっと。ちょっと話があるんだけど‥‥‥今 いいか?」
「ちょっと津川!!」
「‥‥大丈夫だよ。文句言いに来たんじゃない」
抗議しようとした明日香に向かって、津川は安心させるような温かみのある声でそう言った。
「で、今 大丈夫なのか?」
「‥‥‥うん」
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津川と一緒にやって来たのは、日の当たりのいい中庭だった。
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
しばらく沈黙。
津川も、何て話を切り出そうか迷っているようだった。こういうときは、とりあえず私が何か話しとくべき?でも、何かって何?今まで津川と面と向かって話すことなんてなかったから、どうしていいか全然分かんない。
そうこう悩んでいる内に、津川は決心をつけて たった一言、言葉を発した。
「―――‥‥ゴメン」
「‥‥え‥‥?」
「今まで、いろいろ悪かった。ホントは、サマーフェスティバルが終わった時に言えればよかったんだけど‥‥俺、一回とっちまった態度はなかなか元に戻せないから‥‥」
「‥‥‥‥‥」
「そのせいで、いろいろきついこととか言ったかも知れないけど、全部が全部本心ってわけじゃないから」
「‥‥‥っ‥‥」
「当日には言えなかったけど‥‥、サマーフェスティバルでのあの客は、明智のおかげだよ」
「‥‥っ‥‥っ‥」
誰が、こんな言葉を予想出来ただろうか?
津川が私を見るその目は、決して冷たい目なんかではなかった。ずっとずっとその目を私にも向けて欲しかった。その目が今、私の目の前にある。優しい優しい笑顔の津川と共に‥‥。
「‥‥‥泣くなよ。明智」
ありがとう。その言葉は 喉につかえて、どうしても 伝えることが出来なかった。
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